課税の対象のこと。
各種税法(所得税法や法人税法など)毎に課税標準が定められている。
それらの課税標準に対し、各種の税が課される。
例えば、
法人税法に規定される「各事業年度の所得に対する法人税」という税の課税の対象(課税標準)は、
「各事業年度の所得の金額」と規定されている(法人税法21条)。
課税の対象のこと。
各種税法(所得税法や法人税法など)毎に課税標準が定められている。
それらの課税標準に対し、各種の税が課される。
例えば、
法人税法に規定される「各事業年度の所得に対する法人税」という税の課税の対象(課税標準)は、
「各事業年度の所得の金額」と規定されている(法人税法21条)。
法人税における所得については、法人の事業活動の成果です。
企業会計では、法人の利益は、損益法、すなわち一定期間の間における収益からそれを得るのに必要な費用を控除する方法で計算されるますが、
法人税法は、その企業会計の利益を基にして、法人の各事業年度の所得の金額を計算することとしています(法人税法22条)。
ただし、企業会計上の利益と、法人税法における所得については、その性質に差異があるため、その所得を計算するために企業会計上の利益に一定の調整を加えなければなりません。
各種税法において、「所得」という単語が持つ意味とは何なのでしょうか。
当サイトでは、「所得」とは、収益獲得能力の観点から担税力を図る際の尺度であると考えます。
さらに、この所得は、原則として、担税力を図るものであるため、獲得した財産から、それを獲得するために流出もしくは消費した財産を控除した差額としての可処分利益として表されることになります。
このとき、その「獲得した財産」と「獲得するために流出した財産」の定義が問題となります。
例えば、帰属所得のうち、「未実現の経済的価値の増加」を「獲得した財産」とみなすかなどが問題になります。
この問題については、今後の研究が望まれる分野です。
当サイトでも、ゆくゆくは、研究していこうと思います。
また、租税法学者は、本件をどのように整理しているかを金子宏名誉教授の意見を中心に、以下にまとめます。
金子宏名誉教授によると、租税法上、「所得という概念」は、固有概念の1つであり、「経済上の利得」を意味するものとされている[1]。さらに、ある利得が、所得に該当するかどうかは、その利得の原因をなす行為や事実の法的評価をはなれて、実現した経済的成果に即して判定すべきであると述べられている。
また、所得に課される税のうち代表的なものとして、法人税と所得税があるが、これらにおいては、金子宏名誉教授は、「所得税・法人税は、所得を個人または法人の総合的担税力の標識としてとらえ、これに課税するものであるから、(ある利得が、所得に該当するかどうかは、)合法な利得であるか不法な利得であるか、有効な利得であるか無効な利得であるかを区別せずに、それが個人または法人の担税力を増加させるという事実に着目して所得の意義を決めていくべきであろう」と述べられている[1]。
まず、所得税における所得とは、何かを検討する。所得税における所得については、金子宏名誉教授は、「真の意味における所得は、財貨の利用によって得られる効用と人的役務から得られる満足を意味するが、これらの効用や満足を測定し定量化することは困難であるから、所得税の対象としての所得を問題にする場合には、これらの効用や満足を可能にする金銭的価値で表現せざるをえない」と述べられている[2]。
さらに、「所得を金銭的価値で表現する場合にも、その構成の仕方には2つの類型がある」と述べられている[2]。
そして、その1つは、消費型(支出型)所得概念と呼ばれるものであるが、それは、「各人の収入のうち、効用ないし満足の源泉である財貨や人的役務の購入に充てられる部分のみを所得と観念し、蓄積に向けられる部分を所得の範囲から除外する考え方である。(中略)この考え方を制度化した場合には、人の1年間の消費の総額を所得としてとらえ、それに累進税率を適用して税額を算出することになる。この制度のもとでは、たしかに、生涯所得の大きさを基準として納税者の間の公平を保つことが可能となる。また、この制度は、投資や貯蓄を奨励し、資本の形成を促進するのに役立つであろう。しかし、①所得の概念を消費として構成することは、所得という言葉の通常の用例に反すること、②蓄積に向けられる部分を課税の対象から除外することは、富の較差を増大させ公平負担の原則に反する結果を生じやすいこと、③そのような結果を避けるためには、相続税および贈与税を大幅に増税する必要があるが、それは実際問題として不可能であること、④高齢者が財産をとりくずして消費に充てた場合にそれに課税することは、多くの人々の素朴な正義感に合致しないこと、⑤この考え方のもとでは、消費のための借入れも所得に入ることになるが、それは一般人の常識に反すること、⑥家族構成員の間における消費の帰属の判定が容易でないこと、⑦執行が次に述べる取得型所得税の場合よりもはるかに困難であること、⑧法人税の根拠づけが困難になること等、この制度には問題が少なくない。そのため、消費型所得概念は、どこの国でも、実際の制度においては採用されておらず、今後も採用される見通しは少ないと考えられる。」と述べられている[3]。
そして、もう1つは、取得型(発生型)所得概念と呼ばれるものであるが、それは、「各人が収入等の形で新たに取得する経済的価値、すなわち経済的利得を所得と観念する考え方である。この考え方が、各国の租税制度において一般的に採用されている。」と述べられている[4]。
さらに、この取得型所得概念のもとにおいて、所得の範囲をどのように構成するかについて、2つの考え方があるとされている[4]。
金子宏名誉教授によると、「1つは、制限的所得概念で、経済的利得のうち、利子・配当・地代・利潤・給与等、反復的・継続的に生ずる利得のみを所得として観念し、一時的・偶発的・恩恵的利得を所得の範囲から除外する考え方である。この考え方は、所得源泉説あるいは反覆的利得説とも呼ばれるが、イギリスおよびヨーロッパ諸国の所得税制度は、伝統的にこの考え方に基づいており、そこでは、キャピタル・ゲインのような一時的・偶発的利得は、長い間課税の対象から除外されてきた。」と述べられており[4]、これに対するアンチテーゼとしてのもう1つの考え方として、包括的所得概念を挙げ、次のように説明している。
「この考え方のもとでは、人の担税力を増加させる経済的利得はすべて所得を構成することになり、したがって、反覆的・継続的利得のみでなく、一般的・偶発的恩恵的利得も所得に含まれることになる。この考え方は、純資産増加説とも呼ばれ、1982年にゲオルグ・シャンツによってはじめて体系化され、その後アメリカでもロバート・ヘイグやヘンリー・サイモンズによって主張された。1913年にアメリカ合衆国で採用された連邦所得税制度は、基本的にはこの考え方を採用するものであって、そこでは、イギリスおよびヨーロッパ諸国の制度と異なり、いかなる源泉から生じたものであるかを問わずすべての所得を課税の対象とすることとされた。[4]」
上記の2つの考え方のうち、金子宏名誉教授によると、今日では、次の3つの理由から包括的所得概念が一般的な指示を受けているとされている[4]。
① 第1に、一時的・偶発的・恩恵的利得であっても、利得者の担税力を増加させるものである限り、課税の対象とすることが、公平負担の要請に合致する。
② 第2に、すべての利得を課税の対象とし、累進税率の適用のもとにおくことが、所得税の再分配機能を高めるゆえんである。
③ 第3に、所得の範囲を広く構成することによって、所得税制度のもつ景気調整機能が増大する。
また、金子宏名誉教授によると、上記の理由に基づき、諸国の租税制度は、徐々に包括的概念の方向に動きつつあり、わが国においても、第二次世界大戦前は、所得の範囲は制限的に構成されていたが、戦後は、アメリカ法の影響のもとに、その範囲は包括的に構成されている[4]。
次に、法人税における所得とは、何かを検討する。法人税における所得については、金子宏名誉教授は、「基本的には法人の利益と同義であって、法人の事業活動の成果を意味する」とし[5]、さらに、「わが国の企業会計では、法人の利益は、損益法、すなわち一定期間の間における収益からそれを得るのに必要な費用を控除する方法で計算されるが、法人税法22条1項は、それを前提として、法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする旨、定めている。したがって、法人税額の計算において、最も基本的な問題は、益金および損金の意義を明らかにすることである。」と述べている[6]。
この益金の額については、法人税法22条2項により、以下のように定められている。
(法人税法22条2項)
「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする」
また、損金の額については、法人税法22条3項により、以下のように定められている。
(法人税法22条3項)
「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入するべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。①『当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額』、②『①に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く)の額』、および③『当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの』」
以上より、金子宏名誉教授によると、「所得」とは、概念上、「経済上の利得」であり、所得税においては、「包括的所得概念」を基礎とし、法人税においては、「法人の事業活動の成果」との考えを基礎としているものと考えられる。
・参考文献
[1] 金子宏「租税法 第20版」(平成27年・弘文堂) p.119
[2] 金子宏「租税法 第20版」(平成27年・弘文堂) p.181
[3] 金子宏「租税法 第20版」(平成27年・弘文堂) p.181-182
[4] 金子宏「租税法 第20版」(平成27年・弘文堂) p.183
[5] 金子宏「租税法 第20版」(平成27年・弘文堂) p.305
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例) 税理士試験対策(法人税法)
(各事業年度の所得に対する法人税の課税標準)
第21条 内国法人に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の課税標準は、各事業年度の所得の金額とする。
1. まえがき
このページは、固定資産税名義人課税主義事件(最大判昭和30年3月23日)をふまえ、「租税法律主義の意義と機能」について検討するものである。
2. 事実の概要
(1) 相関関係
① X (個人、原告・控訴人・上告人)
② A社 (訴外)
③ Y (大阪市北区長、被告・被控訴人・被上告人)
(2) 事件内容
① 昭和26年2月5日
Xが、大阪市北区に保有していた土地(以下、「本件土地」という)を訴外A社に譲渡。
② 昭和26年2月10日
本件土地の移転登記を完了
③ 昭和26年6月1日[1]
北区長Yが、本件土地の昭和26年分の固定資産税をXに賦課(以下、「本件賦課処分」という)し、請求。Xは、昭和26年第2期、3期分の固定資産税を納付。
④ 昭和26年12月10日[1]
北区長Yが、本件土地の昭和26年第4期分の固定資産税をXに請求。
⑤ Xが、本件について提訴。
(3) Xの主張
以下の理由により、本件賦課処分は取消されるべきである。
① 固定資産税は、その現在の所有者に課されるべきもの
② 4月以後を納期とする昭和26年度固定資産税は、同年2月に所有権を喪失したXに課せられるべきものではない
③ 2期、3期に納付した分も返還されるべき[1]
(4) Yの主張
本件賦課処分は、以下の法律に基づいているため、正当である。
① 固定資産税は、その年の1月1日を賦課期日として固定資産の所有者に課する(地方税法343条1項、359条)
② 所有者とは土地については土地台帳もしくは土地補充課税台帳に所有者として登録されている者をいう(地方税法343条2項)
(5) 争点
争点は、「法律の解釈」と「法律の合憲性」について(事実認定については、争いなし)。具体的には、以下。
① 誰が固定資産の所有者として納税義務者となるか。すなわち、2〜4期分もXが負担すべきか否か。(以下、「争点①」という)[1]
② 固定資産税の取扱いは、憲法の基本的人権の尊重の規定(憲法11条)等に違反するか否か(以下、「争点②」という)[2]
(6) 争訟の経緯
① 一審 (大阪地判、昭和27年11月14日)
X敗訴(詳細は、表1参照)。
② 控訴審 (大阪高判、昭和28年4月20日)
X敗訴(詳細は、表2参照)。
③ 最高裁 (昭和30年3月23日)
X敗訴(詳細は、表3と次節を参照)。
【表1:争点整理(一審) [1]】
| 争点 | 納税者X | 課税庁Y | 裁判官 |
|---|---|---|---|
| 争点① |
a. 固定資産税はその所有者に課すべきもの(地方税法343条)。
b. 旧地方税法では、344条以下において、その使用者に対し固定資産税を課する場合は、使用の月割りに従って課税することとしているので、通常の固定資産税も、そのような例外的対応も認められるべき。 c. 担税力の少ないものに課税することは、課税者たる地方団体の利益も害することになる。 |
d. 固定資産税の賦課に違法又は錯誤がある場合には、徴税令書の交付を受けた日から30日以内に市町村長へ異議申し立てができるが、最初に通知した6月1日から7ヶ月程経過している。 |
a-b. 法律上、当該年度の1月1日を賦課期日とし、その日の所有者が納税義務を負担することになっている(地方税法343条1、2項、359条)。
e. 固定資産税の納期は、納税者の便宜を考えたもので、固定資産税を期税とする趣旨のものではない。 |
【表2:争点整理(控訴審) [2]】
| 争点 | 納税者X | 課税庁Y | 裁判官 |
|---|---|---|---|
| 争点① | a-c. 一審と同一 |
d. 一審と同一。 |
a-b. 法律上、当該年度の1月1日を賦課期日とし、その日の所有者が納税義務を負担すると解するのが相当(地方税法343条、359条)。
c. 上記のように解すれば、不公平は避け難いところではあるが、徴税の簡便を計り、税収入の確保と徴税費用の節税を期することが公共の福祉に適合する。 d. 4期分の徴税令書は、1年分の税額を本算定して清算するものであることから、新たな賦課処分があったものと見るべき(被控訴人の主張は採用できない)。 |
| 争点② | a. 地方税法359条が固定資産税の賦課期日後において、課税物件たる土地の所有権を失っても、その年分の固定資産税の全額の納付義務を免れ得ない趣旨を規定したものとすれば、それは、憲法の基本的人権の規定に違反する。 |
a. 憲法上の基本的人権、財産権不可侵の原則もまた、公共の福祉のためにある程度制約は免れない。
b. 固定資産の所有者は、このような取扱いを見越し、その対価を定めることができるため、憲法違反とは言い得ない。 |
【表3:争点整理(最高裁) [3]】
| 争点 | 納税者X | 課税庁Y | 裁判官 |
|---|---|---|---|
| 争点① | a-b. 法律上、当該年度の 1月1日を賦課期日とし、その日の所有者が納税義務を負担すると定められている(地方税法343条、359条)。 | ||
| 争点② | a. 控訴審判決は、憲法11、12、14、29、30、65条に違反。 |
a. 固定資産税は、課税の便宜のために形式的な標準を採用していることがうかがわれる。
b. 租税は、日本国憲法(憲法30、84条)に従って、創設、改廃され、納税義務者、課税標準、徴税の手続きが定められているため、違憲ではない。 c. 原審の「公共の福祉による制約」の説明は、妥当を欠くきらいがないではないが結論は同じ。 |
3. 判旨の詳細 (最高裁)
判旨の詳細として、以下。
(1) その年の1月1日に所有者として登録されていれば、それだけで固定資産税の納税義務者として法律上確定される(地方税法343条、359条)
① したがって、4月1日に始まるその年度における納期において土地所有権を有する者であると否とにかかわらず、同年度内は納税義務者にかわりがない
② これは、固定資産税の納税義務者の決定に「課税の便宜のための形式的な標準」を採用していることがうかがわれる
(2) おもうに、民主政治の下では国民は国会におけるその代表者を通して、自ら国費を負担することが根本原則であり、国民はその総意を反映する租税立法に基づいて自主的に納税の義務を負うものとされ(憲法30条)、その反面においてあらたに租税を課し又は現行の租税を変更するには法律又は法律の定める条件によることが必要とされている (憲法84条)
① したがって、日本国憲法の下では、租税の創設・改廃だけでなく、「納税義務者」、「課税標準」、「徴税の手続き」の定めは、全て前示のとおり法律に基づいて定められなければならず、これらの定めは、法律に基づいて定めるところに委せられていると解すべき
② したがって、地方税法が地租を廃して、土地の固定資産税を設け、そして所有権の変動が頻繁でない土地の性格を考慮し、主として徴税の便宜に着眼してその賦課期日を定めることとしても、その当否は立法の過程において審議決定されるところに一任されているものと解すべき
③ したがって、1月1日現在において土地所有者として登録されている者を納税義務者と確定し、その年度における納期において所有権を有する者であると否とを問わないこととした地方税法343条、359条の規定は憲法30条、84条に適合して定められていること明であって、所論は結局独自の立法論にすぎない
4. 本判決に対する意見
(1) 判決に賛成
① 正しい手順によって定められた法律は、原則として、国民の意思が反映されたものであり、よほどの事情(憲法に違反しているなど)がないかぎり、個別の納税者の事情で、その取扱いを変えることは、法的安定性を損ね、行政の負担を極めて重くし、かつ、場合によっては、課税の公平を損ねることになりえないと考えられるため、否定することはできないものと考えられる。そして、本件は、憲法に違反しているなど、よほどの事情は認められないものと考えられる。
(2) ただし、1月1日の所有者に課税される本制度に、税法に詳しくない納税者が不満を感じることは理解できる。
① なぜならば、一般に、課税は各納税者の担税力に応じてなされるものと理解されていると考えられ、課税の便宜のために、実質的に担税力を持たない期間についても課税されることに対し、納税者が不満を感じる場合があることは当然であると考えられるため
② すなわち、納税者の感情を考えると、理想を言えば、課税は各納税者の担税力に応じて行われるべきであると考えられる
③ しかし、徴収コストとのバランスを考えると現行制度を維持せざるを得ないと考えられる
④ しかし、徴収コストを増加させずに、より担税力に応じた課税が行われるような租税制度が実現できれば、より納税者に理解が得られる制度になると考えられる
5. 事案の検討
以下、参考資料[4]『ケースブック租税法』の「Notes & Questions」に記載されている事項について検討する。
(1) 本判決の意義
① 本判決は、憲法30条および84条の規範的意味が、「租税法律主義」を明定することにあることを明らかにした
a. 意義無し。本判決は、租税は、「法律に則って定められるもの」とし、そのようにして定められたものは、原則として、有効であるとした意義があると考えられる。
② 本判決は、「課税要件」と「租税の徴収の手続」といった租税制度の構成について広い立法裁量を認めた
a. 意義無し。
(2) 名義人課税主義の意義
本件判決は、直接には、固定資産税の名義人課税主義、すなわち各年の1月1日の登記名義人をもって固定資産税の納税義務者たる所有者とする旨を定める地方税法343条1項、2項、359条の合憲性に関する先例である。
① 本件判決は、名義人課税主義の根拠として、「徴税の便宜」をあげているが、名義人課税主義がなぜ徴税の便宜に合致するのか
a. 名義人課税主義を採用することによって、課税する行政側は、その年の1月1日の所有者となっている名義人を把握し課税すればよく、年内の名義人の変更や、実質的な所有者を調査しなくて良いため、実質を重視する方法に比べ、名義人課税主義は、「徴税の便宜」が図られる課税方法となっていると考えられる
② 名義人課税主義をとると、どのような問題が生ずるか。それは、取引当事者がどのような注意をすれば避けることができるか
a. 実質的に経済的利益の供与を受けない者(担税力が減少した者)が、その事情を考慮されずに納税義務を負担せざるをえない問題がある
b. 対象となる資産の売買契約時に、売り手が負担する固定資産税を考慮して、売買価格(譲渡対価の額)を決定すれば、上記a.の問題は避けることができる
③ 本件において、Xは、Aに対して、自分の納付した固定資産税相当額の不当利益の返還を求めることができるであろうか
a. 民法等の法律に詳しくないため、推測ではあるが、XとAの間で交わされた譲渡契約に、固定資産税の取扱いについて、なんの記載もない場合は、返還を求めることができるものと考えられる。
(イ) なぜならば、最高裁判決(昭和47年1月25日)において、本来の所有者であるY’の固定資産税をX’が負担していたとして、その不当利得(民法703条参照)をY’がX’へ返還すべきとの判決がでている[5][6][7]。
(ロ) 上記(イ)の判決を本件にあてはめると、課税庁Yの賦課処分は正当であっても、訴外Aが得た利得は、民法の規定「法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。(民法703条)」にしたがって、返還義務が生ずるものと考えられる[8][9][10]。
b. さらに、XとAの間で交わされた譲渡契約に、固定資産税の取扱いについての記載がある場合は、推測ではあるが、契約の内容次第で取扱いが異なるものと考えられる
(イ) 例えば、契約内容に「譲渡する年の固定資産税を売り手が負担する」旨が記載されている場合は、もちろん、返還を請求することはできないと考えられる
(ロ) しかし、契約内容に「譲渡する年の固定資産税を買い手が負担する」旨が記載されている場合は、おそらく、売り手が支払った金額を買い手に請求することができると考えられる
(ハ) ただし、上記(ロ)の場合に、契約書内に矛盾点がある場合や、お互いの契約の過程で誤った情報の下で合意がされた証拠が示された場合は、民法95条の錯誤無効に当てはまり契約自体が無効となる可能性があるかもしれない(例えば、売り手が固定資産税を負担すると契約書に明記した上、買い手が固定資産税の納税義務者となるとの思い込みから、売買代金から固定資産税に相当する額を値引きした金額を売買価格としていた場合など)。この場合は、おそらく、固定資産税の取扱いに関する部分が錯誤無効と判断される場合は、固定資産税についての契約がないため、その不当利益の返還が請求できるものと考えられ、譲渡契約全体が錯誤無効とされる場合は、おそらく、そもそも譲渡がなかったものとなるため、売り手と買い手の間に新たに、固定資産税の取扱いを考慮した契約が締結され直すことになるものと考えられる(締結に至らなかった場合は、おそらく、固定資産が売り手へ再度移転登記され、その間に売り手が得られたと考えられる経済的利益と両者の損害を精算するに留まり、固定資産税に係る不当利益の論点は生じないものと考えられる)。
6. 参考資料
[1] 大阪地方裁判所・昭和27年11月14日判決/昭和27年(行)1号 (D1-Low.com 第一法規法情報総合データベース)
[2] 大阪高等裁判所・昭和28年4月20日判決/昭和27年(ネ)1122号 (D1-Low.com 第一法規法情報総合データベース)
[3] 最高裁判所・昭和30年3月23日判決/昭和28年(オ)616号 (D1-Low.com 第一法規法情報総合データベース)
[4] 金子宏・佐藤英明・増井良啓・渋谷雅弘「ケースブック租税法〔第4版〕」(弘文堂、2013)42頁
[5] 東京地方裁判所・昭和46年2月18日判決/昭和43年(ワ)892号 (D1-Low.com 第一法規法情報総合データベース)
[6] 東京高等裁判所・昭和46年5月21日判決/昭和46年(ネ)598号 (D1-Low.com 第一法規法情報総合データベース)
[7] 最高裁判所・昭和47年1月25日判決/昭和46年(オ)766号 (D1-Low.com 第一法規法情報総合データベース)
[8] 山田二郎「租税判例百選<第2版>[別冊ジュリスト79]」(有斐閣、1983)10頁
[9] 平川英子「租税判例百選<第5版>[別冊ジュリスト207]」(有斐閣、2011)170頁
[10] 金子宏「租税法[第21版]」(弘文堂、2016) 665頁
以上
「憲法と租税法」の関係について議論することとなった訴訟
昭和41年:D大学の教授X氏が、昭和39年分の給与所得に対する税務署の賦課決定処分に対し、訴えを提起。
昭和49年:京都地方裁判所、請求を棄却
昭和54年:大阪高等裁判書、控訴を棄却
昭和60年:最高裁判所、原審判決を指示
⇒ 20年近く、課税の公平性について、憲法を絡めて争われた。
1. 事実と概要
1.1. 賦課決定処分の内容
D大学の教授Xの昭和39年の収入金額として、170万円余の給与収入と5万円余の雑収入があった。
(参考情報)昭和39年の民間企業に勤めるサラリーマンの平均給与は、およそ41万円(※「参考資料1」参照)。
給与所得者であっても、給与収入が一定の金額以上である場合は、確定申告が必要(旧所得税法)。
Xは、その義務があったが、履行せず。
所轄税務署長Yは、納付すべき税額5万円余と無申告加算税5,700円の賦課決定処分をなした。
1.2. Xは処分の取消しを求めて出訴
(Xの主張)
旧所得税法における給与所得に対する課税は、憲法14条1項に違反している。
⇒したがって、本件処分は違法。
1.3. 憲法14条1項とは?
すべて国民は、法の下に平等であつて、
人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、
政治的、経済的又は社会的関係において、
差別されない。
⇒すなわち、原告Xは、以下を主張している。
旧所得税法における「給与所得に対する課税」は、国民を平等に扱っていない。
1.4. 原告Xの主張の具体的な内容
給与所得者は、その他の所得者に比べて、合理的理由なしに重く課税され、不公平な取扱いを受けている。
(1)所得税法が事業所得には必要経費の控除を認めているが、給与所得は一定額の控除しか認められていない。
⇒実際の経費が、その一定額を超えた場合、不公平。
(2)給与所得の捕捉率が、事業所得より高いので不公平。
(3)事業所得等について、合理的な理由のない特別措置があり、不公平。
2. 判決
昭和49年:京都地方裁判所、請求を棄却
いずれの点についても、Xの主張を排斥し、請求を棄却。
昭和54年:大阪高等裁判書、控訴を棄却
適正職業費が給与所得控除額を超えていれば、国に対してその超過部分について非課税を求められる。
しかし、超えていると認められないため、控訴を棄却。
昭和60年:最高裁判所、原審判決を指示
憲法14条1項に違反していない。
原審判決の結論を指示。
3. 判旨
3.1. 主張(1)について
確かに、事業所得は実額控除、給与所得は概算控除(一定額の控除)をそれぞれ認めていて、事業所得者と給与所得者は、区別されている。
上記は、憲法14条1項の規定に違反している?
14条1項は、差別を禁止する主旨であって、絶対的な平等を保障したものではない。
国民各自の差異はあり、それに応じて法的扱いを区別することは、合理性があれば、憲法に反しない。
憲法には、以下の定めもある。
国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。(30条)
あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。(84条)
⇒つまり、憲法自体は、課税要件及び租税の賦課徴収の手続きは、法律の定めにゆだねている。
⇒すなわち、著しく不合理であることが明らかでない限り、憲法に違反するということにはできない。
また、給与所得者が勤務上必要な費用は、使用者が負担するのが、通例。
給与所得者が費用を支出する場合においては、「必要経費」と「家事上の経費」を明瞭に区分することが一般的に困難。
⇒徴収費用の増加、租税負担の不公平をもたらす
⇒租税の徴収を確実・的確かつ効率的に実現するために、概算控除は正当性を持つ。
給与所得控除の額が相当性を有するか?
必要経費は、一般に使用者が負担。
交通費等の職務に関わる金銭の給付やその他の現物給付などは、おおむね非課税。
⇒原告の資料から、上記以外に負担した費用が給与所得控除額を超えているとは考えがたい。
⇒旧所得税法における、給与所得者と事業所得者の区別は、合理的なものであり、憲法14条1項に違反しない。
3.2. 主張(2)について
給与所得の捕捉率が、事業所得より高いことについては、税務行政の適正な執行により是正されるべき性質のもの。
捕捉率の較差が正義衡平の観念に反するほど著しく、長年にわたり恒常的に存在しているとは認められない。
⇒捕捉率の較差によって、旧所得税法が、憲法14条1項に違反しているとは言えない。
3.3. 主張(3)について
事業所得等について、合理的な理由のない特別措置があるということについては、もしそうであっても、その特別措置を是正するべき問題。
⇒事業所得等について、合理的な理由のない特別措置があるということ、旧所得税法が、憲法14条1項に違反しているとは言えない。
4. まとめ
原告Xは、「給与所得者は、その他の所得者に比べて、合理的理由なしに重く課税され、不公平な取扱いを受け、旧所得税法は、憲法14条1項に違反している」と主張した。
(1)(原告)事業所得は必要経費の控除を認めているが、給与所得は一定額の控除のみ。
⇒(判旨)給与所得者と事業所得者の区別は、合理的なものであり、かつ、負担した費用が給与所得控除額を超えていると考えがたく、違反しない。
(2)(原告)給与所得の捕捉率が、事業所得より高い。
⇒(判旨)税務行政の適正な執行により是正されるべきであり、違反しない。
(3)(原告)事業所得等について、合理的な理由のない特別措置がある。
⇒(判旨)その特別措置を是正するべきものであるため、違反しない。
5. 本訴訟が与えた影響
サラリーマンの重税感、不公平感
租税立法に対する違憲審査の基準
租税法律主義
租税公平主義と給与所得課税
6. 私の感想
以下を痛感
・各概念の厳密な定義の難しさ
→ 平等(公平)、必要経費
・課税において考えるべき要素間のバランスの難しさ
→ 納税者間の公平性
→ 所得計算上の厳密性
→ 行政上の効率性
(参考資料1)昭和39年の平均給与
民間給与実態統計調査結果|長期時系列データ|国税庁
https://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/jikeiretsu/01_02.htm
2−2 企業規模別給与所得者数・平均給与(m02.xls,シート「2−2」)
1. 税法入門
税大講本(国税庁)
2. 条文等
法令検索(総務省)
法令解釈通達(国税庁)
3. 研究
ファイナンス(財務省)
フィナンシャル・レビュー(財務総合政策研究所)
税大論叢(国税庁)
税大ジャーナル(国税庁)
租税資料館賞(租税資料館)
日税研究賞(日本税務研究センター)
蔵書検索(国会図書館)
国会会議録(国会図書館)
論文検索CiNii(国立情報学研究所)
4. 関連機関
政府与党(自民党)
財務省
財務総合政策研究所
国税庁
租税資料館
日本税務研究センター
日本租税研究協会
国会図書館
※その他、お勧めのリンクがございましたら、コメント欄へ記入いただけると助かります。
以上。
法人の定義は、法律上、明確に定義されていませんが、一般的に、自然人以外の者であって、法令により権利能力を付与された社団又は財団であるとされています。
また、会社法3条に「会社は、法人とする」と定められ、会社法2条1項に、会社とは、「株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社をいう」とされています。すなわち、会社法では、その規定の対象とする会社(株式会社、合名会社、合資会社及び合同会社)を法人であると定義しています。
そして、法人税法における法人という用語が示す対象は、会社法で用いられる概念が借用され、株式会社、合名会社、合資会社及び合同会社を含むものとされています。
しかし、法人税法における法人という用語が示す対象は、会社法で用いられる概念よりも広く、協同組合等、公益法人等及び人格のない社団等も規定の対象として条文が構成されています。
※人格のない社団等は法人ではありませんが、法人税法3条により、法人税法上は法人とみなすこととなっています。
法人税法上、法人税は、以下の3つが定義されています。
① 各事業年度の所得に対する法人税
② 各連結事業年度の連結所得に対する法人税
③ 退職年金等積立金に対する法人税
一般に、法人税と言えば、①を指す場合が多いです。
本サイトにおいても、法人税と記載した場合、断り書きがない限り、①を指すこととします。